レストランと自宅で出会う。新しい出会いかたを「sanmi Lab」で体験した。

この新型コロナウィルスの蔓延で世界は大きく変わった。
わたしたちは新型コロナ以前と以降という境目を越えてゆくこの世界をいま目撃をしている。
その中で多くの人が、我慢ではなく新しいスタイルとしてECサイト(インターネット通販サイト)で取り寄せ、美味しいものを自宅で食べるという楽しみを手に入れた。
以前であれば「レストランがやっているEC」という考え方だった。今はその逆「ECで初めて出会うレストラン」という楽しみ方が提案されている。
取り寄せで偶然出会った料理が美味しくて、そのレストランに興味が湧いてそのレストランに出かけてゆく、そんな体験ができるかもしれない。わたしもカレーという料理を通じてそんな楽しい体験をした。
きっかけをくれたのが、虎ノ門ヒルズの中にあるモダンフレンチのレストラン「sanmi Lab」だった。
モダンフレンチのレストランが冷凍のカレーをECサイトで販売しているという話を聞いた。
STAMP WORKSの「#お店の味 を自宅で楽しもう」特集企画プロジェクトからのご縁。ぜひ食べてみたいとお願いをしたのだが、そのレストランがすごかった。
「sanmi Lab」の玉水シェフはフランスの2つ星レストラン「Le Pré Xavier Beaudiment」で部門シェフとして腕を振るった料理人。その玉水シェフが厨房を率いる「sanmi Lab」は「酸味」と「三味」そしてそこからくる「三位一体」を根幹とし新たな食体験と味覚を生み出すモダンフレンチのレストラン。
ワインとのフードペアリングにこだわりを置き、見た目や味の豊かさだけではなく、酸味等によるボディメンテナンスやヘルスケアを意識した料理を提供。
内側から美しく、を実践するレストランだ。
疑問が浮かぶ。フレンチレストランでなぜカレー?そこがわたしの興味を刺激する。
とはいえ色々考えたり調べたりの前に大事なことがある。なにしろカレー、まずは食べねばわからない。
その名前を「完全栄養食カレー」という。
まずはファーストトライアル。届いたカレーは洒落た黒いボックスに入っていた。きちんとパッケージに店の世界観を込めようという想いが伝わる。説明書通りに湯煎をして、シンプルに白ごはんに合わせての試食。準備がすごく簡単だ。
皿に注いだカレーソースは、少しグリーンがかったブラウン。ふわりとよい香りが上がる。
ひと口目、口中にじわりと広がる旨味の中に甘さとほんのり苦味とほどよい酸味、それをまとめるスパイスの香り。
カレーという食べ物の味の幅は広い。その中でもよくあるガツンとくる強いファーストアタックのスタイルとは違う穏やかさにおやっと思わされる。
スパイスはきちんと効いておりちゃんと体の中が循環し始めている感があるが、舌には穏やか。口の中に残る酸味と旨味に強いつながりの面白さを感じる。
チキンがたくさん入っているが、軽やかだ。鶏むね肉のなせる技、いや、それだけではないようだ。鶏むね肉がぱさつかずみずみずしい。食感もほろり崩れる柔らかさ。叩いた感じの大粒のそぼろ的むね肉とスライスされた大きめのむね肉、別々に手をかけてあり、食感の変化をつけてある。
満足感と楽しさが倍増する。
ヤングコーンのシャキシャキした食感の楽しさ、ちゃんと残る野菜自身の持つ味と個性。大変に美味しい。
風味豊かなのに軽やかで、なんというのか「罪のなさ」を感じてしまう。カレーを食べるにあたり重たいとかカロリーとかそんな言葉を思い出してしまう人も多いだろう。しかしこの「完全栄養食カレー」にはそういう罪悪感がない。不思議なのだが食べていて「ノット ギルティ」を感じてしまうのだ。
楽しみはこれでは終わらない。付属の追加味、花山椒と岩塩が控えている。
花山椒、舌が痺れる楽しい変化球となるが過剰にはならない。繊細な痺れと苦味が舌に残り、切れが良くなる。
岩塩には驚かされた。オーストラリア産のマレーリバーソルトというもの。その場で体感でわかるくらい旨味と奥行きが増すこれには目を見張るものがあった。
正直、味はこれらを加えてより満足感が高まる感がある。が、それは初めて1食食べた時点での感想。幅の広い層へのアプローチやコンセプトである毎日毎食でも食べられる、というところを考えればこの落とし所の理由と正確さがわかる。
2食目はパスタ仕立てにしてみた。こちらの組み合わせもかなりいい。
ヤングコーン、マッシュルーム、タマネギ、肉などの具材が白ごはんとのコンビネーション時より際立つと感じる。やはりヤングコーンの食感が印象に残った。
食べてみれば本当に軽やかで美味しく、そしてその生い立ちに興味が湧いてくる。
ご無理を言って「sanmi Lab」の加藤取締役と玉水シェフにお時間を割いていただいた。
まずはなぜ、モダンフレンチのレストランからカレーが生まれたのだろうか。
実はカレーは当初レギュラーメニューでは当然なかった。賄いから生まれたものなのだ。
飲食店での賄いの時間は少々慌ただしい。ランチ営業とディナー営業の間の休み時間、店は開いていないがレストランは生きている。中締めの会計、銀行、翌日の仕入れチェックに清掃、仕込み、連絡関係。そんな忙しい時間を縫ってのほっと一息の食事の時間。短い休み時間に素早く食べられて美味しく、なおかつきちんとエネルギーチャージもできる。そういう条件の中から玉水シェフが生み出したのがこの「完全栄養食カレー」の始まりだった。
メニューに載せ販売をするという、裏方からスポットを浴びる立場となった賄いカレーは「完全栄養食カレー」になるためにブラッシュアップを重ね、成長した。しかしもともと持つコンセプト、ベーシックなおいしさで、毎日、いや毎食でも食べられるという柱にブレはない。
「一回食べて美味しいというインパクトよりも、もっと自然に日々になじむような味。それに加えて、何を食べようかと考えないで済むくらいの栄養バランスのものを作りたかったのです。」と加藤取締役。
食べ物を選んだり考えたりするのが大変だ、というくらい超多忙な生活を送るビジネスパーソンのキッチンにこのカレーがあって、毎食何も考えずにこれを食べればからだは大丈夫、そんなライフスタイルサポートという部分で完全食を目指したということだ。
きわめて都会的、現代的なライフスタイルを想定して考えられている。そしてもちろん、そういう生活ではない人でも、きちんと必要な栄養を網羅した美味しいものを手早く食べられるという恩恵は大きなものがあるだろう。
賄いでたまたま玉水シェフがカレーを作ったことがあったという。「フレンチのシェフが凝ったオリジナリティ高いカレーを作るのは意外だった。そこから始まったのです。シェフの心優しさや気遣いが味やスタイルに出たカレーだと思います。」と加藤取締役は言う。
食事に時間をかけられない飲食店員のランチ。体力も気力も大いに必要な大変な現場、そういう場所で体と気力をキープするための賄い飯というのはとても大事なものなのだ。それを司る栄養価が高くさらりと時間をかけずに食べられて毎日食べても飽きない、そういう意味でスーパーランチフードともいえる機能とおいしさがバランスする。
「フレンチの厨房に入る前に修行していた洋食のレストランでメニューの中にあった洋食スタイルのカレーも学びました。」と玉水シェフ。
そんな二つのバックボーン、フレンチの繊細さや技法と日本の洋食店のクラシックなメニュー。それらを玉水シェフの技術と知見、フィルターを通してオリジナルカレーという形に結実したのがこの「完全栄養食カレー」なのだ。
フレンチの「シュエ」という手法、「汗をかかせる」という意味を持つこの技術で食材自身が持つ水分で低温の蒸し焼き調理で野菜などの甘味を引き出した。塩味は敢えて抑えている。好みで足せばいいものでカスタマーの自由度が増す。花山椒は調理時に入れて熱を加えると香りが飛びメリハリがなくなるのを嫌ってこちらも敢えての後がけ。玉水シェフの緻密な計算とセンスが光る。
お二人のお話しがとても面白く、フレンチのプロたちが食べている賄いをきっかけに、そこに情熱を注いで我々が食べられるように仕上げてくれるまでのストーリー。本当に楽しいものだった。
ここまでお話をうかがうとレストラン、「sanmi Lab」その場所で食べてみたくなる。インタビューからそれほどたたぬ数日後に、新型コロナ関連での営業自粛から再開した「sanmi Lab」に足を運んだ。
連絡もなくうかがったがほどなく玉水シェフがわたしを見つけてくださり笑顔で迎えてくださった。
「sanmi Lab」は虎ノ門ヒルズの2階、吹き抜けのアトリウムにある。奥にあるシックで天井の高い重厚な空間と店頭の明るい日差しが差し込むテラスとの対比が楽しい、心地の良いレストラン。
なるほど、あのカレーはここからやってきたのか。
ランチメニューは肉、魚、カレーという3種からチョイスができる。フレンチという看板の下でも遜色なく「完全栄養食カレー」の注文が次々と入るのを目撃した。カレーが好きなわたしはなんだか他人事に思えぬ嬉しさが込み上げる。
このビジュアル、この盛り付けを見てみたかった。部屋に帰って「完全栄養食カレー」を食べる時のイメージがまた広がるはずだ。
前菜に3品。
ラタトゥイユはしっかり目の味で目が覚める。野菜で豊かな旨味が出る料理は素晴らしい。
コールスローは優しく穏やかな酸味が心地よい。しんなりして見えるがシャキシャキとした食感がちゃんと残り、繊細な酸味と香りが大変食欲をそそる。
ポテトサラダもよかった。上に乗ったベーコンがスモーキーで香り豊か。噛みごたえがあって楽しい。
そしてこれが「完全栄養食カレー」のレストランスタイル完全版。
自然な素材の甘味が力強くアタックでくる。そのあとに旨味がゆっくり舌の奥側に入ってきて余韻になる。
ファーストアタックはカレーというよりもおいしい煮込み料理。2〜3口食べて、ああ、これはカレーだ、と思い直すのは後から後からスパイスの香りが追いかけてくるからか。甘味、旨味、香りと酸味。そんなサイクルがあるような気がする。
ごはんは雑穀米でぽろぽろとした感じに炊き上がり、好ましい。ごはん、とても風味がいい。
カレーライスとくれば福神漬だが、そのポジションを担うのが甘酸っぱく漬けたビーツのピクルス。大変においしく、とても印象的。
吹き抜けのアトリウムに出された座り心地いいソファでゆっくり楽しむランチ。この体験とECサイトで注文した冷凍の完全食カレーとのリンクはなかなかに忘れがたいものがあった。
レストランに出かけて食事をする楽しみ、これは永遠に変わらない。そこにはコミュニケーションがあって、暖かい空気があって、美味しい食事と出会い、新しい発見、体験がある。それらがある限り、レストランというものは永遠に人々から求められ続ける。
ただ、そのスタイルやディティールは少し変わるかもしれない。
レストランのECサイトで出会ったカレーが美しいインテリア、エクステリアの洒落たレストランに繋がっていた。ECサイトで取り寄せというスタイルの食の楽しみ方から遡って良いレストランに出会うことができた。
出会いはインターネット。料理はECで自宅にやって来てくれた。
さあ、あとは併設のレストラン「sanmi」。美味しい料理をどんなふうにスタイリングしてどんなマリアージュを見せてくれるのだろうか。
そんな思いでレストランにたどり着く小さな食の冒険旅行。新しい食の楽しみ方が現れた感がある。
購入はこちら
店舗情報
公式サイト:https://sanmi.tokyo/
公式FBページ:https://www.facebook.com/sanmilab333/
公式Instgaram:https://www.instagram.com/sanmi_lab/
食べログ:https://tabelog.com/tokyo/A1308/A130802/13241680/