気分も上がる職人気分。臼杵せんべいの手塗り体験。

レビュー
3,240 円(税込)
購入はこちら

職人への憧れ、尊敬など持っている人は多いと思う。かく言うわたしもそのひとり。

特にわたしは食をテーマに文章を書く仕事をしているので一次産業に従事する方々やコックさんたちに強い尊敬と憧れの念を抱いている。

現場でダイナミックに水揚げをする漁師さん、牧場などの現場で汗する畜産業の方々。レストランで繊細な仕事をするシェフたちやすごい量を一気に作り上げる給食の現場。どこの場所に立つ人たちにも魅力を感じている。

そして食品製造。たとえば伝統的な手法で食品製造をする職人の方々には憧れとともにその技術や伝承などのバックボーンに強く興味を覚える。近所のお豆腐屋さんやパン屋さん。日常に溶け込み存在する食品製造の現場の職人さんにもたまらなく魅力を感じるのだ。

大分県の老舗煎餅店、その創業は大正八年。伝統をきちんと守りながらも面白い取り組みや新しい製品開発を怠らないと聞いた。その面白いものというのが「臼杵せんべい」の製造工程である「手塗り」を体験できるキットだ。

まずは「臼杵煎餅」とはなになのか。

起源は江戸時代まで遡る。五万石を誇る臼杵藩稲葉領主が参勤交代での折、道中の食料として米、麦や雑穀等を材料に作り上げた携行食が臼杵煎餅のルーツといわれている。登山やトレイルランなどのシーンで見かけるトレイルミックスやペミカンのようなエナジーフード、携行食だ。

現在は小麦粉を主原料として、大分県臼杵市が生姜の一大産地であった歴史も織り込んで生姜の風味も加えたものが大分銘菓「臼杵煎餅」となった。いわゆる瓦せんべい的な小麦粉を使うかた焼きの甘いせんべいだ。そこに刷毛で生姜の搾り汁と砂糖を混ぜた生姜糖を手塗りする伝統製法で作られている。

そしてその煎餅に生姜糖を塗って完成させる工程を体験するためのキットがこれ。

臼杵せんべい「手塗り体験キット」なのだ。

臼杵せんべいを製造する職人たちは生姜糖を刷毛で一枚づつていねいに手塗りし、表面に縞模様を描きだす伝統製法を守り、黙々と「臼杵煎餅」を生み出している。伝統製法である「輪かけ」(手塗りのこと)の工程を自宅で体験することができるもの。

さて、さっそく開封してみよう。

パッケージを開けると体験キットには通常含まれない後藤製菓のこだわる「うすき」の名前の製品も入っていた。ラインナップにこういうものもあることを知って欲しいという気持ち。3種の製品が入っていた。心意気を感じてしまう。

「うすきせんべい・生さんど」は生姜を練り込んだやわらか仕上げの生姜せんべいに小倉餡・抹茶餡・ブルーベリージャムをサンドしたもので、本元である固い臼杵煎餅をやわらかくアレンジしたもの。どら焼き的な感じの柔らかさ、生姜がほのかに香り、心地よい。サブレにアレンジした製品もある。これも臼杵煎餅より柔らかく仕上げてあるので幅広い人が食べられるもの。伝統を守りつつちゃんとモダンなものも展開しているということがわかる。

ここまでは序章。

待望の手塗り体験、始めてみることにする。

準備は簡単。

水40ccを用意して、電子レンジ加熱ができる器に(心持ち大きめがいいだろう)キットに入っている生姜糖の粉を入れ、水を加える。水、少ないんじゃないかなあと思うがこれでいい。

スプーン等で混ぜていく。均一に混ざったらレンジで加熱。丁寧な説明書が入っているので何も迷わずに完成する。

いや、実は迷った。水の分量と生姜糖の粉を全量使っていいのかをちょっと迷った。

生姜糖の粉の量が結構あるのだ。しかし水を入れて混ぜると適量に収まってくれるので大丈夫。粉はとても細かくて息で舞い上がったりするとむせるので、注意。

説明書通り電子レンジで数回のレンジアップをすれば、熱々の透き通った生姜糖のシロップが完成する。

かなり熱いもので、作業の途中で固まったら再加熱などすることも必要になる。お子さんとご一緒に作るお父さんお母さんは、火傷に気をつけてあげて欲しい。

次に丁寧にもキットに同梱される作業シートを机に敷いて、いよいよ刷毛塗りの開始。

刷毛はシュロでできた硬い毛先の素朴なもの。針金でまとめてあってシンプルないでたち。いかにも職人さんが使う道具という風情でこれだけでテンションが上がる。短く切りそろえられたほうが煎餅に当てる側となる。

いよいよ「手塗り体験」

あまりタレをつけすぎないように刷毛で生姜糖のシロップをすくってやり煎餅の表面にくまなく塗っていく。ここはざっくりで大丈夫。そしてシュロのハケの固さを利用して力を込めて生姜糖のシロップを塗った面を刷毛でシュッシュっとこすっていく。

イメージは表面から生姜糖シロップをこそげ落とすイメージ、だろうか。ハケをだんだんと横移動させて何度もこする。すると表面に結晶化した生姜糖シロップの筋が見えてくる。これで1面終わり。裏返して同じことを繰り返す。そこまでできたら1枚分の前工程は終了。次の煎餅に移って作業だ。

これ、なかなかにコツがいるのでおもしろい。煎餅の持ち方や生姜糖シロップのすくう量、力の込め方や擦る回数。自分で工夫していくと面白い。完成品の見本は製品版の「臼杵せんべい」が入っているからそれを参考にしてひたすら刷毛を動かす。なんだか無心になってくる。自分の意識が臼杵せんべい職人に近づく瞬間だ。

ここはやっぱり、と職人さんに敬意を込めて首にタオルなど巻いてみる。ちょっとしたコスプレだ。こういうちょっとしたことも外に出かけずにできるお楽しみの一つであろう。

説明書を読んで作ったものと説明動画を見てからやったものとの比較がおもしろかった。

この動画がとても親切なのだ。必ずこれを見よう。

この動画に出てくる後藤製菓五代目の後藤亮馬さん、とても感じがいい。丁寧、誠実な感じで「手塗り」のやり方を教えてくれる。くれぐれもこれを見てから挑んだほうがいい。

そのうえ五代目はイケメン。動画でイケメンに指導されながら煎餅職人を目指せるキットである。このキットのアピールポイントとして大きな価値だと感じる。

わたしの手塩にかけた臼杵煎餅、写真で見ての通りである。動画を見ずに塗ったもの、上の写真の左手のものだ。一部袋に入れてある。刷毛目が太い、ちゃんと刷毛目がつけられていない。タレの量が多い。

これではいかんと2回目のトライ。それが向かって右手のもの。刷毛目が多少細かい筋になってきている。それにしても製品(キットに入ってくる完成品。これを基準としてうすき煎餅職人を目指すのだ)と比べるとちょっと泣けてくる。職人への道は険しいのだ。

1回目は説明書だけ見てやってみようとあえて動画を見なかった。するとこのざまである。とはいえ美味しいので食べる分にはまったく問題ないのだけれど。でもやはり職人さんの技に迫るのがこのキットの醍醐味。動画はぜひ見てからチャレンジして欲しい。

残った生姜糖のシロップへの提案まであって、無駄なくスマートだ。わたしは炭酸で割ってジンジャエールとして飲んでみた。これ、ずいぶんおいしい。紅茶にに入れればジンジャーティ。寒い今の季節にピッタリくる。

わたしはフードツーリズムをみなさんに推奨している。一次産業の現場や食品製造の現場に出向いてそれを自分で見て、その上で土地のものを食べるという体験はなにものにも代え難い。食というものの興味と理解につながり我々の価値基準の中に「適正な価格と価値」という基準をを作ってくれるものだと考えている。

職人さんたちの手仕事や伝統を守ることなどにもつながるもので、大変大事なことだと考えているのだ。

しかし、このご時世である。なかなか一次産業の現場には行きづらく、大手の食品工場などの見学ラインは止まったままだ。

そういう中でこのキットは職人が伝える伝統的な製法などを通じて一般の人たちの食への興味を作り出すという役を担う、価値あるものだと感じる。

伝統企業のコロナへの一手を超えて大きな価値を持つのがこのキットなのだ。

とはいえまずは純粋に楽しいこのキットを楽しむことから始めて欲しい。

ずいぶんリーズナブルでだれもが幅広く楽しめるよいものだったので。

はぴい

フードジャーナリスト、ビデオブロガー。食をテーマとしたライフスタイルブログ「カレーですよ。」に5000記事の実食カレーレポートを掲載。著書 技術評論社「iP...

プロフィール

関連記事一覧